要介護度5の、父の介護のために、会社を辞めたとき、僕がほっとした気持ちになったことは、以前にも書きました。

 世間では、介護離職が問題になっていますし、介護離職を、マイナスにとらえる傾向が強いのですが、僕の場合は、逆でした。

 僕にとって、介護離職は、限界を感じていた会社員生活からの、解放だったのです。

 それほど、僕は、仕事に疲れ切っていました。

 もう少し厳密に言えば、仕事と、通勤にです。

 睡眠を犠牲にした24時間の勤務、そして、往復4時間に及ぶ通勤時間。

 それが特に苦痛に感じられるようになったのは、去年からでした。

 今、僕は57歳ですが、衰えをはっきりと自覚したのが、56歳のときで、仕事でも、小さなミスをおかすようになりました。

 ボイラーなどの火器を扱うだけでなく、高所での作業もある仕事なので、ちょっとした不注意が、命取りになることもあります。

 もしかしたら大きな事故を起こすのではないか、そんな不安を感じるようになったのも、56歳を過ぎたあたりからです。

 老いには、個人差があると思います。

 僕の場合は、56歳が、曲がり角でした。

 そうした矢先、父を自宅で介護することになり、会社を辞めたのですが、僕の本心は、「仕事から解放されて、ほっとしていた」のです。

 介護は大変だと、言われますが、ありがたいことに、父の場合は、オムツ交換と、痰の吸引、胃瘻からの栄養注入という、三つのポイントさえ、しっかりとやっていれば、おおむね、問題はありませんでした。

 頭がしっかりしていたことが、何よりも助かりました。

 痴呆で、わけのわからないことを言われたり、ウロウロされるほうが、よほど、大変なのではないかと思います。

 会社員生活を続けることに限界を感じていたちょうどそのときに、父の介護が必要になったのは、僕にとっては、むしろ、恵みでした。

 何はともあれ、無事故で、老朽ホテルの、設備管理の仕事を卒業できたことは、よかったと思います。老いと衰えを自覚し、不安を感じていたときだけに、より強く、そのように思うのかもしれません。