ある夫婦がいた。
あなたは、その夫婦の夫に、似ているかもしれない。

「私はあなたが望む私を演じるから、あなたも私が望むあなたを演じてよ」
これは、妻の、あなたへの隠れた声だ。

しかし役割を演じるのは大変だし、無限に演技を続けていくわけにもいかない。

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ある時、妻は荒々しい甲高い声であなたを非難し、ののしり、わめきたてる。

それも、たいていは、ほんの些細なことのためだ。

まったくよそよそしくなることもある。

「どうかした❓」とあなたは訊く。
「別に」と、彼女はこたえる。

だが、彼女の発する敵意に満ちたエネルギーは、「何もかもまずいのよ」と告げている。

眼を覗いても、もうそこには光は見られない。

あなたが知って、愛した存在は、もう、そこにはいない。
見も知らぬ他人が、あなたを見返す。
その目は、憎悪と敵意と苦々しさと怒りを湛えている。

この人を選んだのは恐ろしい間違いだったのではないか、と、あなたは考える。

これは、非日常なのか、日常なのか。

どちらにせよ・・・・・・人生は続いていく。